ぶどう園日記

昔話

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ぶどうのお客様から父の話を聞かせてもらえることがある。

その大方は、「洋海さんは頭がよく、勉強は学校で一番だった」とか「生徒会長をしていた」という、父の優秀さについての話だ。

今日のお客様。

シルバーヘアーで上品な女性の方。

「え❓洋海さん亡くなったの❓私、幼馴染だったのよ」

そう言うと、父の思い出を話し始めた。

あ。

勉強できたとかそんなんだろうとタカを括って聞いていた。

「洋海さんね、ポケットに蛇を入れててそれをわーって出して私を驚かせたのよ。考えられる❓ポケットに入れて。それから振り回して追いかけてしたの。恐ろしかったわ〜。」

あははは♪

父ちゃんもそんなところあったのね♪

私も私の息子もそういうイタズラっ子で、よく怒られた。

何かにつけて、あなたのお父さんはと言われ続けていたが、今日の思い出話は最高だ♪

そうよね。

おんなじDNA。

なんか嬉しい。

家に帰ってくつろいでいると電話が鳴った。

また、電力安くなるとか資産運用の電話だとモニターを覗くと固定電話からだった。

はい。手嶋です。

「私は木村といいます。あなたが洋司さんですか?」

はい、手嶋洋司といいます。

「あなたの洋の字にピンと来たんです。お父さんは洋海さんですか?」

はい、父は洋海です。

「私は滋賀に住んでいるんですが、若い頃あなたのぶどう園の隣に住んでいました。今は結婚して木村ですが、旧姓は本村といいます。今日、福岡の知り合いからブドウが届きました。送ってくれた方もどなたかからぶどうをいただいて、その箱の印字に川崎町田原とあったので、田原に住んでいた私が懐かしがるだろうと送ってくれたんです。そうですか‼️やはり私のうちの隣のぶどう園で採れたぶどうだ。」

電話の向こうの声は時折咽び、涙しておられるようだった。

本村さん‼️

私はこの方は存じ上げないが、彼のお母さんはよく知っている。

もとむらおばちゃん。

本村さんの家は、ぶどう園の横にあって、高い木でできたトンネルを歩いていくと土間の真ん中に手押しポンプの井戸があった。

そこの水は夏でも冷たく、美味しかった。

子供の私は、そのポンプの仕組みが面白くて、いつも勝手に入って行って水を飲んでいた。

家の主が居ようがいまいが、呪文のように「もとむらおばちゃん、水ちょうだい♪」と叫んで敷地に入っていた。

残念ながらそこにはもう家も井戸もなくなっている。

電話の主とその当時の田原と今の田原について30分ほど長話をした。

うちのぶどうたちは、時々こういうイタズラをして私を驚かす。

蛇を振り回すよりずっとずっとステキな仕業。

ぶどうがいろんな人たちと私を繋いでくれる。

ほんと、嬉しいな。

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