ぶどう園日記

インターン

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大学生や高校生が社会に出る前に仕事の場を体験してみること。

水曜日からベトナムに来ている。

福岡県の温州ミカンが11月からベトナムに輸出できるようになった。

九州農産物通商は、この解禁を皮切りに県産のミカンを輸出をスタートさせた。

取引先は、在ベトナムの日系企業で、社長とご担当は日本人。

ご担当は尾崎さんという。

福岡県の大学に通っていたこともあるためか、今回の取引も全力であたっていただいている。

ありがたいことだ。

以前福岡を訪れた時に会食をしながら話した時に、どうしてベトナムの輸入企業で働こうと思ったのか聞いてみた。

「インターンです。ベトナムに行って、インターンでお世話になって、結局大学を中退して就職してしまったんです。」

へー。

たいへん興味をそそる決断。

私の歳になるとどうしてもご両親の視点で考えてしまう。

それは反対するだろうな。

「反対されました。卒業するつもりで入学したんだろう、と。」

そうだな。

私でも、卒業してから行けばいいじゃないか、なんて言うかもしれない。

社長さんとはWEBで一度話しただけで、ちゃんとお会いするのは今回が初めてだ。

彼がこの企業で大学卒業を待てないほどに魅力を感じ働きたくなったのか。

「インターンでベトナムまでやってきて、自力で会社まで訪ねていくと、会社には誰もいなくて。

一人社員らしい人を見つけ、社長のところに連れて行ってもらいました。

多分、社長は私が来ることも忘れてて、『尾崎くんくるの今日だっけ?』ってパソコンのキーボードカタカタやりながら言っていました。」

それは乗っけから、ハードだったね。いきなり、来たことないベトナムの住所渡されて自力で行くなんて、大人でもドキドキするよ。

「そこで社長からミッションを三つ言い渡されました。

①ベトナム人は整理整頓が苦手。この倉庫を整理整頓する仕組みをトヨタの改善の視点で作ること。

②これから富裕層になる君と同世代に商品がどうしたら売れるようになるのか。

③これからこの会社が大きくなっていく。社員と社長のモチベーションがどう違うのかを調査。

おおお。

これは、私でも相当悩む。

①は、実際に倉庫の動線などを調べ、効率よく動けたり整理ができる改善策を考えた。

②。

食を通じて日本のことを知ってもらう。そうすれば、この国の若い世代が顧客になり得る。

仕掛けはこうだ。

カフェでケーキを楽しんでもらいながら、日本の文化を勉強してもらおうというもの。

イベントは上手くいき、尾崎さんもその結果に満足した。

そんな時、社長から言われた。

「うちの会社をイベントで紹介した?PRできた?」

していなかった。

イベントをやることが目的になっていて、その先にある真の目的のことを見失っていた自分に気がついた。

悔しさにまみれ、3つ目の課題の答えを得た。

このままではいけない。

インターン期間はそこで終わった。

リベンジだ。

尾崎さんは、再びベトナムを訪れ、今度は社長が求める真の目的を胸にイベントを準備した。

今回の食材は「うめがやもち」

福岡の名所、太宰府天満宮の周辺でお土産として親しまれている由緒あるスイーツだ。

これをベトナムの若者に手作りしてもらって味わいながら、日本の伝統や文化を学んでもらう。

美味しさ、取り組みやすさ、背景にある歴史観や伝統。

申し分ないテーマだ。

準備を完璧にし、何度もイメージトレーニングをした。

何も不安はなかった。

しかし悲劇は直ぐに訪れた。

教室に集まった全員が、電気プレートで餅を焼こうとしてスイッチを入れた途端、ブレーカーが焼き付き、停電してしまった。

いきなり真っ暗。

会場はパニックに。

収拾はつかず、電気が回復することはなかった。

社長は、集まっていたお客様に丁重にお詫びをして、急遽用意したお詫びの品を配って収めた。

この経験があるから彼が就職した、というのは少しばかり乱暴な気がする。

二度の大失敗で折れてしまう人だっているだろう。

社長にしても、尾崎さんが辞めてしまう心配はなかったのか。

「彼は高校時代、野球部員で、その練習の内容を聞いたことがありました。それがすごくって。土嚢担いで山に駆け上るとか、屈伸を2000回とか、片足ケンケンで300段の階段登るとか。そんなキツイことやってのける奴なんだから、絶対に折れないって思ってたんですよ。

うちでも、イベント以外にもエレベーターのない3階の部屋から段ボール2000箱を運び出すとかやらせたことありましたけど、彼は大丈夫でした。」

「土嚢担いで山に登るよりは楽ですから」と尾崎さん。

両親の説得虚しく、尾崎さんは大学を中退し、ベトナムへ向かった。

彼の初任給は3万円程度。

ベトナムの最低賃金だ。

会社には既にベトナム人が働いていた。

いきなり何もできない日本人がやってきて高給取りになったでは、全体のモチベーションが下がってしまう。

会社内の事を考えれば当然の判断だった。

会社に寝泊まりし、そこで働いた。

徐々に仕事もこなせるようになり、給料も上がっていった。

部屋が借りられるようになり、シャワーからお湯が出だ時は涙が出たという。

頑張った尾崎さんもそれを眼差しを持って見ていた社長も素敵。

こんな会社が福岡のミカンをベトナムの皆さんにお届けしてくれている。

素晴らしいことだ。

私は、ベトナムの未来を確信した。

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