〜ぶどうの価格〜
ぶどうで育ててもらいました。
私、弟、妹。父と母は、俺たち兄妹3人をぶどうを栽培することで大学までやってくれました。
かなりの負担だったろう。ご丁寧に浪人も腹一杯したし・・。
通常、農家は生産したものを農協や市場に出荷し、出荷された農産物は中卸業者を経由して末端の小売店に送られ、消費者の手に届きます。
手嶋ぶどう園が普通の農家と違うのは、この販売ルート。
市場を通さず、直売で直接お客様に買っていただく。
道端に選果場を建て、そこで庭先販売しています。
今でこそアチコチに農産物直売所が建てられているが、ウチが直売を始めたのは今から47年前。私が小学1年の時でした。
それからず~っと直売一筋。
そうすることで単価を安定させてきました。
そうでもしなければ、スネにかじり付いた穀潰3匹を養うことなどできやしない。
再生産価格。
モノには原価というものがあります。
それが出来るまでにかかった物財費、運賃や労賃の合計を生産された数量の単位あたりに換算した金額。
これを割ってしまうと生業としては成り立たなくなり、農業は無論のことどんな産業でも経営は続けられません。
市場に出荷していると、この再生産価格を割ってしまうことなんてザラです。
なんとかしようと農業界でも資材費や労賃を下げ、効率化を図ることでコストを下げてきましたがもう限界です。
再生産価格で買っていただく、ということ。
どうしたらお客様が満足してくださるのか?これはぶどうに関わらず、サービス業全般に共通した永遠の課題です。
ただ満足していただくのではなく、”売り手が決めたお値段で”という条件が付きます。
どこでもあるようなぶどうでは、そうそう売れません。
手嶋ぶどう園が追求したのは、ぶどうの甘さ。
巨峰では限界があります。
より甘くなるブラックオリンピアという品種を栽培しています。
手嶋ぶどう園のブラックシップともいえる品種、ブラックオリンピア。
見た目は巨峰と変わらないが、かなりのじゃじゃ馬。
栽培にはそれなりの技術が必要です。
ひとつぶのしあわせ、そのために
ブラックオリンピアをおいしく育てるには、技術が必要です。
先代は考えました。
甘さを決めるのは果実の糖度と酸度のバランスです。
糖の割合が一定以上高く、酸が低ければぶどうは甘い。
酸は昼と夜の温度差が確保できれば下がってくる。
では、糖を上げるにはどうすればいいでしょうか。
植物のなかで糖をつくるのは葉っぱにある葉緑素。ここが光の力を借りて二酸化炭素と水から糖と酸素をつくりだします。
ならば、樹に葉っぱをいっぱい付けてどんどん光合成をさせれば美味しいぶどうができる、という理屈になります。
問題はその理屈をどう現場で展開するか、です。
葉っぱをいっぱいにすることなど簡単じゃないか?そう思われるかもしれません。
ぶどうは棚で栽培します。
棚は2次元の平面。
平面の上に平面的に葉を並べても並べられる葉の数には限界があります。
通常の仕立てでは総葉面積は棚平面の2.5から3倍。
福岡県の指導機関でもこの位の重なり具合が理想だと指導しておられます。
その数では普通とかわりない。
4から4.5倍。
葉を平面に並べるのではなく、枝自体をコンパクトにし、通常平面に伸びる枝を垂直方向に伸ばす仕立てにしました。
そうすることで葉を平面ではなく立体的に展葉させ、あますところなく日光を取り込む。
重なりあっては日が当たらなくなるのだから意味がないだろうって?
こういう仕立てにすると葉は互いに申し合わせたように斜めを向く。
平坦屋根と波状屋根。総表面積が大きいのは後者です。
強制的にその形へと押し込むのではなく、ぶどうがそうなりたいと願う形がそうだったようです。
ぶどうの声を聞き、ぶどうのやりたいようにさせる。
そして私達の仕事は「ぶどう達が果実を育むお手伝い」なのです。
これが手嶋ぶどう園の秘密。
秘密を暴露してお前ん家大丈夫なんか?って?
大丈夫。
これ、やろうとするとかなり大変だから。
汗をかき、お客様に満足していただく。
その汗こそが本当の秘密なのかもしれませんね。