ぶどう園日記

背中

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30歳の頃、2年ほどボクシングをやった。

その頃は新婚で二又瀬のマンションに住み、飯塚の事務所に通勤していた。

その通勤路に「粕屋スポーツジム」と買いた看板を見つけ、まずは見学してみることにした。

一階はテナントで美容室、その横の階段を上がっていくと、普通の玄関があった。

こんにちは〜。見学したいんですけど。

と声をかけると、女性の方が

「どうぞ。ジムは3階です。」

と、慣れた対応をした。

2階は居住スペースで更に階段を登っていくと、想定していなかった光景が目に飛び込んできた。

スポーツジムって書いてあったから、フィットネスマシンが並んでいるかと思いきや、パンチングボールとサンドバッグ、そしてリング。

あら。

ここってもしかして、ボクシングジムですか?

「はい。」

バンテージを巻いる人達にする質問としては、まが抜けている。

ボクシングか。

まあ、いいや。面白そうだ。

それから通い続け、ボクシングが好きになった。

指導をしてくださったのは、ジムの監督でオーナーの渡辺先生。

その頃、先生は50を超えていたが、練習生のスパーリング相手は自らがされていた。

生涯現役。

その姿勢が素晴らしかった。

更には、練習生の多くが彼に勝てなかった。

私も絶対ぶちのめしたいと何度も挑戦したが、やられっぱなしだった。

調子良く先生にパンチが入ると、「ナイス‼️」と声が出た。

このナイス‼️は猛反撃のスイッチで、コテンパンにやられた。

今夜は、先生を訪ねた。

「何年振りかな」

もう、ここを辞めてから25年ですね。

「今日は、またどうして訪ねて来てくれたとかいね?」

県庁に勤めていた時に、こちらの前を何度も通り過ぎていたのですが、深夜だったり、急いでいたりとなかなかですね。

心に余裕がなかったんですかね。

でも今は余裕がたくさんできたので、お邪魔しました。

一緒に通っていた友人と3人で、夜遅くまで談笑した。

先生は数年前、片目の視力を無くしてしまったことがきっかけで、スパーリングはやめたものの、先月まで指導はしていたという。

御歳77歳。

「目を悪くしなかったら、今もやってるな」

先生に出会えて良かった。

私は武道はやめてしまったけど、道とは生きる道。

尊敬すべき背中をじっと見つめ、歩いていこう。

また。

遊びにきますね。

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